だれも責任の取らない「仲良しこよし本」 ~本は多数決で作ってはならない

もしあなたが建築設計士で、マンションの部屋を設計するとき、和室は何畳にしま
すか?
私は実際に、出版セミナーで受講生にアンケートをとったことがあるのですが、平
均値を出したら5.1畳になりました。
しかし、5.1畳の和室のあるうちをだれが買うのでしょうか?

 

同じような例が、企画会議でもよくあります。
その出版社は、大手のマスコミ系出版社なのですが、企画書が会議にかけられるた
びに、おそろしくつまらない内容になるのです。
社内の編集会議でとおった企画書が、局長会議にかけられ、そのあと役員会議にか
けられ、さらに営業会議にかけられ、「この内容で出版します」と修正されてきた
内容を見て、私は驚愕しました。

 よくぞまあ、これほどまで「角」を削り、骨抜きにしてくれたなあと。
 なぜ、こんな内容になったのかを担当編集者に伺ってみると、
「うちの出版社は多数決で内容を決めています」
という返事が返ってきました。

 

私は、呆然としました。
平均値を取るような内容の本が、売れるわけがないのです。
学校の教科書ではないのですから、本に対する価値は、百人百様でいいのです。
90人がおもしろくないと思っても、10人がとてもおもしろいと思えば本は売れます。
本は買いたくない人に売る必要はありません。
 
私が作った企画書は、見る影もなく平均化され、タイトルも「みんなで仲良くしま
しょう」みたいな凡庸になっていました。こんな本は、枕にする価値もありません
ね。

 

しかし、世の中を見渡すと、けっこう「みんなで考えました」という本だらけです。
だから本が売れなくなっていくのです。
この原因は、編集会議に参加する編集者が、サラリーマン化しているのも原因のひ
とつでしょう。

何かものごとをスタートするとき、一番無難な答えは「できません」という答えで
す。「できる」と言った瞬間から、責任を取らなければならないからです。
とりあえず「できない」と言っておけば、自分の立場は擁護できるし、安全圏にい
られるのです。

 

否定はだれでもできますが、肯定は本質を知らないとできません。

 

なぜならば、ダメな理由はたったひとつ提示すればいいからです。
「この本は売れる」という理由より、「この本は売れないだろう」という理由のほ
うが、10倍多く考えつきます。
本にオリジナリティがあればあるほど類書は少なく、ほかの本と比べることができ
ません。

 

だから、出版したあとは売るしかないのです。

 

過去のデータは関係ありません。「売る」という信念で行動するしかないのです。

 

信念のある出版社が、どんどん少なくなってきました。
「私が責任を取ります」と言う編集者が、どんどん少なくなっています。

本はどの出版社から出版するのかではなく、どの編集者と組むかで内容も売れ行き
も違ってきます。もしあなたが作家を目指していて、あなたの企画に心底惚れ込ん
でくれる編集者がいたら、それはありえないくらい幸運なことです。


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