「売れない本は犯罪です」 ~売れなくても出す意義がある「使命本」

一介の編集者からスタートし、自分で出版社を作ったリンダパブリッシャーズの社
長、新保勝則さんは、私にこう話してくれました。

 

「いい本とは売れる本のこと。売れない本は犯罪です」

 

私は、この一言を聞いたときは、脳天をガツンと殴られたような衝撃でした。
出版社の経営は、本を売るというビジネスモデルのうえに成り立っているわけで、
理想論だけではメシを食っていけません。
現実論からいえば、確かに「売れない本は犯罪」なのです。

 

「いい本」の大前提には「売れる」という要素が必要です。
そして、売れない本を作った作家や編集者は、それを猛省しなければなりません。

 

では、売れない本は「よくない本」かというと、これはまた違います。
「いい本」でも発行部数が少ないため書店での露出が少なく、だれにも知られずに
消えていった本はたくさんあります。

 

売れない本には2種類あります。
ひとつは、「売ろうと思って出版したけど、売れなかった本」
もうひとつは、「読者は少ないけど、出版する意味がある本」です。
両者は「売れない」ということで結果は共通していますが、本の意図がまるで違い
ます。後者は、確信犯なのです。

 

たとえば、ある種の難病で苦しんでいる認定患者は非常に人数が少なく、その病気
の研究の本を出してもほとんど売れません。しかし、「必要な情報を必要としてい
る人に届ける」という出版の使命から考えると、売れない本でも出す意義があるの
です。

 

私はこれらの本を「使命本」と呼んでいます。
人を助けるという使命を持って生まれてきた本だからです。
「使命本」はたくさんあります。介護の本もあれば、環境保護の本もあります。

 

私が出版プロデュースした本で、『100歳になった介助犬』という本がありま
す。(藤原嗣治 ポプラ社)国産第1号の介助犬グレーデルと車椅子で暮らす飼い
主、野口利男さんとの14年間に渡る絆を描いたドキュメンタリーです。
 
グレーデルは晩年、介助犬としては年老いてしまい、逆に野口さん一家のお世話に
なるのですが、最期まで飼い主のことを心配し、2009年6月9日、天国に旅立
ちました。享年18歳でしたが犬年齢では100歳を越えていました。
この本はあまり売れませんでした。
しかし、介助犬を必要としている人にとっては、一度は読みたい本なのです。

 

最初からマーケットが小さな本もあります。

それでも、「使命本」は出す意義があるのです。

 

本は売り上げが最も大事ですが、売り上げがすべてではありません。

 

作家や編集者が商業主義に走って、「使命本」を作らなくなったとき、本当に、
出版文化の衰退が始まるのではないでしょうか。

 

出版にはビジョンが必要であり、人の役に立ってなおかつ売れる本がベストです。

 

出版に関わる人たちにとって。そんな本を作り出すことが最高の幸せです。
そして、作家も編集者もその目的に向かって邁進(まいしん)しているのです。
私は毎日、そんな「いい本」を作る作家を発掘し、その出版を応援してくれる編
集者と向きあっています。
出版ほど楽しい世界はないと思っています。


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