だれでもプロになれる「1万時間の法則」~現代人はスキルを磨くことができない

「1万時間の法則」を知っていますか?

どんなド素人でも。1万時間修行したり、研鑽したりすると、だれでもプロに
なれるという法則です。
たとえば、格闘技経験ゼロのあなたが、今日から空手を習うとします。
1万時間やれば、黒帯を取得し、達人になれるというわけです。
この法則は『天才! 成功する人々の法則』(マルコム・グラッドウェル 講
談社)にも詳しく書かれています。この本はアメリカで、3ヶ月間に100万
部売れました。

 

1万時間というのは、1日3時間費やすと1年で1000時間、つまり、10年
間かかります。確かに、10年もかけて習得したら、だれでも達人になれますよ
ね。
作家の修行も同じです。1日3時間、休まず10年間書き続ければ、あなたはひ
とかどの物書きになれるでしょう。

 

私は、何かひとつのスキルの積み重ねが作家性のすべてだと考えています。
もしあなたが会社員であったり、OLであったり、自営業であったりしたら、
日々、スキルを磨いているかどうか自問自答してください。
深く狭くひとつのことを長くやり続けることによって磨かれる感性、見えてく
る世界、到達できる境地があるのです。
熟練した陶芸家がすばらしい茶碗を生み出すように、ピアニストが人を涙させ
る演奏を行うように、長く積み上げてきたスキルによって、人を感動させるこ
とができるのです。

 

私の仕事は出版プロデューサーです。
私は、ずっと30年間そのスキルを磨き続けてきました。
そして、多くの本を世の中に送り出すことができました。
これは自分の天職です。1冊1冊がわが子のように思える本もあります。
 
スキルを磨き続けている人は、とても幸せな人です。
作業に没頭している時間は至福の時間なのですから。
私は今の仕事が大好きで、売れそうな本の企画と出会えたときなどは、わくわ
くして、ときおり夜、寝られないこともあります。

 

また、すべての作家が私の先生です。
どれほど多くの作家に、有益な情報やノウハウを教えてもらったでしょうか。
本は作家が長い年月をかけて学び取ったスキルの、一番いい上澄みの部分だけ
をすくい取って作ります。ですから、作家と一緒に本を作るたびに「なるほ
ど!」という驚きや、「うーん」という共感が得られるのです。
本を作りながら、作家の楽しみも喜びも共有し、悲しみも苦しさも共有する、
こんなにすばらしい仕事はないと思います。

 

ところが、現代人はスキルを磨く時間がどんどん短くなってきます。 
原因は、目の前の作業をこなすために精一杯だからです。
1日に5件も6件も打ち合わせを入れてしまい、電車に飛び乗るのも分刻み
です。
単なるルーティンワークでは、スキルは磨かれません。

 

自分と向き合い、深く考える時間がないと、スキルは磨かれないのです。

私は、出版の世界に入ってから、密度の濃い時間も薄い時間も含め、30年間
で少なくとも3万時間、もしかしたら10万時間のスキルを積み重ねてきました。
 
もしあなたが作家以外にも、何かの達人になりたいと本気で決意しているのな
らば、まずは、自分が楽しむことができる「1万時間を積む」ことをお薦めし
ます。
楽しむことに年齢は関係ありません。60歳、70歳になっても始められますよ。


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