一流の作家は人生のどこかで圧倒的な体験をしている ~「人生のターニングポイント」は何か?

あなたの「人生のターニングポイント」は何ですか?

 

ターニングポイントとは「転機」のことで、運命が変わる瞬間です。
私の人生の転機は、田舎から東京に出ようと決意した日です。
高校3年生の春だったのですが、心臓がドキドキして、一晩中眠れませんでした。

 

私は田舎の農家の長男として生まれ、小さいころ心臓が悪かったので、とても大事
に育てられました。両親も祖母も家を継いでもらいたいと思っていました。
しかし、私は田舎で一生を暮らす生活から逃れたいと思うようになりました。
よくも悪くも、たぶん、これは本の影響です。

 

私は厳格な父親に、東京の大学に行きたいと懇願しました。最初は反対されました
が、「これからの時代は大学ぐらい出たほうがいい」としぶしぶ了解してくれまし
た。

 

私は自分のわがままで東京に行きたかったので、すべての生活費は自分で稼ごうと
決意しました。
もちろん貯金も生活能力もまったくないので、考えた末に、「新聞奨学生」に応募
することにしました。新聞奨学生とは新聞配達をしながら大学に通う、今の私から
は想像もできない、とても勤勉で真面目な新聞少年のことです。

私は大学に入学する学費を稼ぐために一浪し、予備校に通い、日夜、新聞配達をし
ながら、わずかなお金をこつこつと積み立てました。

 

新聞奨学生は予備校や大学の入学金・授業料がすべて免除になります。さらに、新
聞の販売店には寮があり、家賃が無料です。ガス、電気、水道もタダです。
食事は朝食と夕食は、新聞専売所のおかみさんが作ってくれます。
私が入った新聞配達店は東西線・新木場駅にある毎日新聞の専売所で、大学生3人、
予備校生2人、高校生ひとりが住み込みで働いていました。

初任給は、手取りで5万4000円でした。

 

しかし、予備校までの交通費、昼食代、参考書代で、あっという間に消えてしまい
ました。1978年、銭湯の料金が155円、手紙は50円、はがきは20円。成人前
なのでお酒を飲んではいけなかったのですが、当時のビンビール大の値段が1本2
15円だったことを覚えているのはなぜでしょう。

 

18歳のときに上京し、一人暮らしを始めてから、私はお金を稼ぐことの厳しさを教
わりました。浪人時代も大学生時代も、生活費や学費はすべて自分で稼いでいます。
今でも覚えていますが、大学1年生の8月の暑いさかりに、私が自動販売機で買っ
た飲みものは、たった1本のコーラでした。

 

私は、自分の苦労話をしたいわけではありません。
ただ、これから作家を目指す人たちに伝えたいことがあります。
作家として名を成す人は人生のどこかで、必ず逆境を体験しています。
究極の貧乏を味わったり、圧倒的な挫折を味わったりしています。

 

それによってだれにも真似できない作家性が生まれます。
他の人にはない価値観が形作れます。
だからこそ他の人にはない視点や発想で、読者の心を打つ本が書けるのです。

 

「非日常体験が作家性を創る」と言っても過言ではありません。

 

今、若くて頭のいいビジネス作家がたくさん生まれていますが、彼らを見ていると
挫折体験や成功体験が希薄な気がします。
無理してわざと失敗したり、絶望したりする必要はありませんが、安全で確実な道
を選んで歩いているだけでは薄っぺらな作家になってしまいます。
はたしてそれで人の心を打ち、人生を変える本が書けるのか疑問です。
他の人にないあなただけのオリジナルな体験から名作は生まれるのですから。


←前へ


続き→


←目次へ