椅子を買いに来たお客さんが椅子を買わない理由 ~本のテーマはたったひとつあればいい

本のテーマは、たったひとつです。2つあってはいけません。
 
これは本を書くときのルールです。具体的な例を紹介しましょう。
あるお客さんが、家具屋に椅子を買いにきました。
店員はあれこれと椅子を薦めるのですが、お客さんは、あまり気乗りがしないようで
す。

 

そこで、よくよく椅子を買いに来た理由を聞いてみると、古くから使っている椅子の
ネジがはずれて、ガタガタしてすわり心地が悪いということがわかりました。
このお客さんは、じつは、新しい椅子がほしいのではなく、古い椅子を直すネジとド
ライバーがほしかったわけです。

 

このとき、この店員は椅子ではなく、ドライバーとネジを売りました。
この店員の親切な対応に感謝したお客さんは、それ以来、新しい家具を買うときには、
必ず、この店員さんを訪ねて来るようになりました。

 

これは、『凡人が最強営業マンに変わる魔法のセールストーク』(佐藤昌弘 日本実
業出版社)の中に登場するお話です。 
この本で作家が訴えたいことは、たったひとつです。
「営業マンはお客さんの話をよく聞きなさい」
これで終わりです。
「えっ、それだけ?」という話が聞こえてきそうですが、本当に、これだけです。
たったひとつのことを、200ページも使って書いているのです。

 

キツネにつままれた思いの人もいるはずなので、ちょっと解説しますね。
この本では、「お客ニーズの掘り起し」がテーマとなっています。
どういうことかというと、「店に買い物に来たお客さんは、自分で自分の買いたいも
のがわからない」のです。
 
家具屋に椅子を買いに来たお客さんが、じつは、ネジとドライバーがほしかったよう
に、どうしてそれが必要か、営業マンが突っ込んで聞いていくと、本当のほしい理由
がわかってきます。

 

このセールストーク術を使えるようになれば、凡人も一瞬にして最強営業マンになる
というわけです。
たったひとつのテーマでも本はベストセラーになります。
なんと、この本は18万部売れています。
 
まさに、ワンテーマ、ワンコンセプト、ワンシンボリックの見本です。

 

この本のテーマは広義では「営業」、狭義では「セールストーク」です。
「お客ニーズの掘り起し」はテーマではなく、正確には「コンセプト」=「基本理念」
と言います。その本を最初から最後まで貫く一本の柱であり、「中心思想」のことで
す。
 
たったひとつのことを極めている人が、その技術を習得する方法を本に書いたとき、
さらに、それが世の中のニーズと合致したとき、ベストセラーが生まれます。
読者は職人の技術やプロフェッショナルが培ってきたものに興味を惹かれるのです。
 
ただ、注意が必要なのは、1冊の本に2つのテーマを混在させてはいけないというこ
とです。前述の本を例にすると、「セールストーク」の本の中に、「サービス」や
「マーケティング」などの別なテーマを書いてはいけません。

 

テーマは「恋愛」と同じです。2人の恋人にアプローチしてはいけません。

 

とにかく、ひたすら、たったひとりの恋人に懸命に尽くすこと。
これが「幸せな愛」を得るコツです。
「いい本」も、ひたすらひとつのテーマで書き進めてください。


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