出版に寄せて     本田健

 

吉田浩さんは、出版界に関わってもう30年になります。

 

先日、「吉田浩さんの30周年を祝う会」に出席させていただきましたが、会場に

は、出版界のみならず、各界で活躍している方が数百名も全国からお祝いに駆け

つけていました。その顔ぶれを見て、吉田さんはこれまで出版界で大活躍してこ

られたのだなぁとつくづく感じました。

 

これまでに吉田さんが携わった本は、すべて合わせると1600冊もあるそうで

すが、そのすべてにドラマがあります。
著者の方もたくさんいらしてましたが、会場を埋め尽くした人々の笑顔を見て、

吉田さんのこれまでの仕事のクオリティの高さを感じました。

 

私は、本を書き始めて、今年でようやく12年目に入るところですが、折に触れて、

吉田さんにいろんなことを教えていただいています。
30年の経験からくる膨大なデータベースから一瞬で出てくる洞察深い言葉には、

いつも驚かされます。

 

「それは、売れやすいテーマですね」といった後、これまでベストセラーに

なった本のタイトル、著者名、部数がコンピューターのようにすらすらと口を

ついて出てくるのですから、びっくりします。

 

吉田さんは、知性面だけでなく、感情面も大切にする人です。
著者の人がどうしてその本を書こうと思ったのか、動機が大事だというのです。
その動機が、自分のためでなく、多くの人のためであると、その本は売れやすい

と言います。著者には、クールな知性と熱いハートの両方がないといけないとい

うのは、吉田さんの出版に対する理念なのでしょう。

 

これまで、売れる本だけでなく、社会に必要な本も数多く出してきた吉田さんで

すが、ときには、利益にならない本も世の中に出すことをやっています。
「出版は、社会的事業なので、少数の人にしか届かなくても、出さなければいけ

ない本がある」という言葉にしびれました。

 

私も本当にそのとおりだと思いますが、現在の出版不況の中では、なかなかそう

いうことを実行できる人はいません。
それは、数々のベストセラーを連発する実力があって、初めて言えることなのか

もしれませんが、そういう両面を持つている出版人がいることに、私は安堵感を

覚えます。

 

私は、34才から本を書き始めましたが、それまで、本を書くという大それたこと

は想像もしたことがありませんでした。
しかし、伝えたい世界のイメージははっきりしていたので、文章を書くスキルの

問題はあったものの作家としてデビューすることができました。

本らしきものを書きながら、「自分にできるはずがない」という気持ちと、

「自分には伝えたいことがある」という気持ちの間を行き来して、ずいぶん苦し

みました。途中で、何度もめげそうになったことをはっきり覚えています。

 

皆さんも、たぶん同じような道をとおると思いますが、私と皆さんの大きな違い

は、この本を事前に読めることです。
出版を考える人にとって、この本は、これから登る山がどんなものなのかが理解

できる、「登山ガイドブック」なようものです。

 

ぜひ、優秀な「シェルパ」の吉田さんに、本の楽しさ、すばらしさ、怖さをワク

ワクドキドキしながら、教えてもらってください。
きっと、これからの作家活動の大きな助けになると思います。

 

では、皆さんの本が形になって、ベストセラーになることをお祈りしています。


続き→


←目次へ