鬼より怖い盗作

2020年06月08日

こんにちは、出版業界のジャイアン、吉田浩です。

これから本を書く方へ。
あるいは、ライターさんに本を書いてもらいたいと考えている方へ。

ちょっと、怖い話をします。

出版業界は、最近は、パクリでも、人まねでも、二番煎じでも、
何でもありの様相を呈してきているのですが、
たったひとつだけ、絶対にやってはいけないことがあります。

そうです。「盗作」です。

他人の文章をそのまま無断使用することを「盗作」といいます。

では、タイトルやキャッチコピーをパクった場合は、盗作に当たらないかというと、
これは、本が売れた場合、逆に、拍手喝采される可能性もあります。

ベースにある作品よりうまく昇華させた場合に限られます。
たとえば、『国家の品格』のあとに、他の出版社から出た「品格シリーズ」です。

しかし、文章の場合は、そのままずばり、マネしたことがわかりますし、
場合によっては、著者から訴えられる可能性もあります。

最近の例だと、ミュージシャンの槇原敬之さんが、
マンガ家の松本零士さんに訴えられそうになり、
逆に、名誉毀損で訴えたという事件がありました。

マンガコミック『銀河鉄道999』(エターナル編第1話)の中に出てくる文章が、
そのまま槇原さんの作詞した歌に使われたというのです。

『銀河鉄道999』
「時間は夢を裏切らない。
 夢も時間を裏切ってはならない」

それが、ケミストリーの『約束の場所』(作詞・作曲/槇原敬之)では、
このように表現されています。

『約束の場所』
「夢は時間を裏切らない。
 時間も夢を決して裏切らない」

このまま読むと、メチャクチャ似てますね?

あなたは、槇原氏が、盗作をしたと思いますか?

この事件の顛末ですが、槇原氏が松本氏に
「コミックで発売されていたことは知らなかった」と謝罪したにも関らず、
松本氏が、しつこく、テレビで「盗作だ」と主張。

それに対して、逆に、槇原側が名誉毀損で訴えました。

裁判は、2008年12月26日に第1審判決が出ました。
それは、松本氏に対して、
「槇原さんの名誉を傷つけた。220万円払え」というものです。

たぶん、松本零士さん、怒りが収まらないと思います。
たった2行ですが、松本零士さんは、
「この2行は、自分が命をかけて紡ぎ出した言葉だ」と言っています。
松本さんの関係者の方から聞いた話ですが、
松本先生は、本当に命を懸けて作品を作っている、そういう方なのです。

裁判所の判断は、こうです。
「印象や、意味合いは異なり、酷似しているとは言えない。
松本さんのセリフを知らなくても、歌詞を思いつくのは可能だ」

たった2行ですから、偶然の一致ということもあるのですが、
吉田は、「そうかな?」と首をかしげてしまいます。

かなり遠回りになりましたが、ここで吉田が何を言いたいかというと、
たった2行でも、盗作として訴えられる可能性があるということです。

初めて本を書く方へ、
100パーセント口述筆記の場合は別ですが、
本を誰かに書いてもらった場合、必ず、細部のチェックが必要です。

参考文献として使った資料等もチェックしてください。

逆に言うと、ゴーストライティングを頼むときには、
それくらい絶対的に信頼できるライターさんに
頼まなければならないということです。

■盗作を軽く考えている人へ

もともと、自分は盗作に無縁だと思っている方や軽く考えている方は、
吉田がここで言っていることをバカにしたり、聞き流します。

あるいは、「そんなこと、あるわけないよ」と高をくくっています。

でも、可能性としては見えないほど小さなことかもしれませんが、
それが、一度、あなたの身に降りかかってくると、あなたの存在そのものが、
世の中から抹消されるくらいの大きなダメージを被るのです。

悲惨なケースを紹介しましょう。

これは、昔、新聞にも掲載されたので、記憶にある方はご存知なのですが、
ある大学教授が、自分の本の中に他の本の文章を数ページ、丸々引用しました。

これが、大問題になりました。
普通は、見過ごされてすぐに消え去るのに、
大学教授という立場が問題を大きくしたのです。

結局、教授は、周囲の眼もあり、大学を自主的に退職しました。
こんなケースは、結構、起こりえるのです。

盗作を甘く見てはなりません。
あなたの今までのすべての業績が、
たった1回の盗作事件で、すべて吹っ飛んでしまうのです。

吉田の先輩ライターで、50歳過ぎのベテランの方がいました。
彼は締め切りに間に合わなくて、ちょっと、参考図書から文章を引用しました。
そして、忙しいので、その文章をリライトすることを忘れ、
そのまま本が出版されてしまいました。

本人に悪気はないのですが、盗作の事実は明らかです。
盗作が分かった時点で、書籍は、全国の書店から全冊、回収されました。

盗作本が書店に流通したら、出版社は、その本をすべて回収します。
そうなったら、その出版社自体の信用もなくなります。
また、出版社にとっては、数百万円の利益損失になるのです。

そして、一番迷惑がかかったのは、著者でしょう。
自分の名前で本が出て、すべての責任がわが身に降りかかってきたのですから。

その先輩ライターは、昔は売れっ子ライターだったのですが、
今では、身を隠すように、ほそぼそと、スポーツ紙の埋め草原稿を書いています。

最近、よくあるケースが、原稿を書くときに、ネットから引用して、
その文章をそのまま使ったという事例です。

こちらも、著者にはその気はまったくなくても、
たくさんの資料を集めているときに、
他人の文章か自分の文章か、わからなくなってしまうのです。

ただし、これも、世の中に発覚してしまった時点で、アウトです。

音楽の作詞に関しては、昔から、たくさんの有名作詞家が、
盗作をしたり、訴えられてきました。

性善説で弁護すると、これは、昔、読んだ本の文章が頭に残っていて、
盗作をするつもりはなくても、ついつい使ってしまったら、
それが他人の文章と同じだったのではないでしょうか?

情状酌量もありえるのですが、やはり、法的にはまずいかもしれません。

著者の方へ
盗作を甘く見ないこと、
軽んじないこと、
必ず、自分の眼でチェックすることが大切です。

天才工場では、ライターさんが複数で本を書く場合、
万一の盗作防止のために、当社の編集者が、必ず原稿の出典を明記させます。

参考文献があったら、それをすべて挙げさせ、その参考文献の文章までチェックします。
膨大な作業ですが、それを経ないと、怖くて本は出せないのです。

世の中、小さな「ズル」をしようとして、
それがあとでバレて、大きな問題になることがあります。

吉田は出版の世界に入って30年以上経ちますが、
ズルだけはしないように心がけています。

本当に、本の世界は、楽ができない世界です。

1冊、1冊、丁寧に作るしかないのです。

出版愛 吉田浩