アイデアが盗まれてしまった!

2020年04月02日

こんにちは、出版業界のジャイアン、吉田浩です。

■偶然、似たような本が出ることはあるのか?

「吉田さん、助けてください。
 出版社に提出した企画書のアイデアが盗まれてしまいました!」

ある夜、女性ライターから一本の電話がかかってきました。

ライターさんが盗作をして書籍を回収した、という話はたまに耳にしますが、
出版社が企画を盗んだという話は、滅多に聞きません。

しかし、皆無というわけではありません。
まれに、そんな話を聞きます。

企画書のアイデアを見た編集者が、
そのアイデアを使って、他の著者で本を出すことは、
超レアケースですが、ないとは言い切れないのです。

そういう場合、アイデアを提案したのは無名のライターで、
実際に著者となるのは有名な作家というケースが多いようです。

なぜならば、無名のライターで本を出すより、
有名作家で本を出したほうが、絶対、売れるからです。

今回の相談者は、
ペットもの(犬、猫)の写真企画を提出したのですが、
よくよく話を聞いてみれば、それほど
オリジナリティのある企画ではありませんでした。

それに、提案者の彼女が著者となる必然性もありません。

要するに、どこにでも転がっているアイデアだけの企画なのです。

彼女が主張しているように「盗作」と言うほどの根拠はなく、
確かにK社で出版された本の中に、一部、似たようなネタが使われているだけでした。

彼女は、頭に血が上って「出版社を訴える」と息巻くのですが、
私は、まずは、冷静になるように諭しました。

そのうえで、企画と実際に出版された本を比較し、
オリジナリティと新奇性について、ひとつひとつ検証していきました。

結論は、確かに一部、似ている箇所があるが、
それは、全体の10%にも満たず、
既刊書のほうが断然、オリジナリティがあることが判明しました。

「偶然にしてはできすぎている!」
と、ライターさんは、納得いかないようですが、
企画者の思いが強いと、逆に、少し似た企画を
「盗まれた」と勘違いしてしまうことがあります。

彼女には、「直接、編集者に電話して確認したらどう?」
と、アドバイスしたのですが、
「電話したり、会ったりするのは気分的にイヤ」だというのです。

確かに、出版社に単身乗り込んで、年配の男性編集者に、
若い女性ライターがクレームをつけるのはなかなかできないと思います。

私は、彼女に言いました。
「あのね、企画というのは、オリジナリティがあるから企画なんだよ。
 マネされるのは、企画じゃないんだよ」

他のだれかにマネされてしまうような企画は、
天才工場でも、『企画のたまご屋さん』でも、受け付けていません。

著者にしか書けないものを求めているのです。
吉田は、それが、「いい本」の定義だと思っています。

■アイデアを盗まれないための工夫はナンセンス

何年かに一度は、こんな相談がありますね。

ただし、よくよく話を聞いてみると、ライターさんが
ひとりで被害者的になっている場合も見受けられます。

たとえば、こんなケースがありました。

「マンガの原作をS社に持ち込んだら、ネタだけパクられて、
 他の原作者で連載がスタートした」と言うのです。

マンガの原作は何かと聞いてみたところ、『新撰組』だというのです。

これは、明らかに、ライターさんの被害妄想です。

『新撰組』なんて、今、発売中のマンガ雑誌にいくらでも登場します。

「近藤勇や土方、沖田などのキャラクターが瓜2つ。
 ストーリー展開がまったく同じ」

と、ライターさんは言いますが、
もともと新撰組メンバーの性格付けは、ほぼ一致しています。
また、史実に基づくストーリーは、みんな同じです。

「あのね、近藤勇が女で、沖田がその子どもだったら、
 それは、立派なオリジナルアイデアだけど、そうじゃないんでしょ?」
「はい……」

確かに、たまたま編集者が何か売れる企画を求めていて、
そのとき、たまたま持ち込まれた企画を見て、ピンと閃いた可能性もあります。

でも、やっぱり、マネされる企画は、企画ではないのです。
他の人に書ける企画は、企画ではないのです。

あなただけにしか書けないオリジナルが必要なのです。

よく、著者さんから、
「企画書の中身はどこまで見せたらいいですか?」
と質問されますが、吉田は、こう答えています。

「全部、見せてください。本は著者のてらいを脱ぎ捨て、
 裸にならないと書けません」

あなたしか語れない部分がある、それが企画なのです。
他の人には絶対に書けない体験がある、それが企画なのです。

「本はエネルギーの塊である」
ということを前回のメルマガで書かせていただきました。

出版は熱意によって成立します。
アイデアだけの本は、どちらかというと、すぐに消えてしまいます。

アイデアを盗まれないための工夫なんて、1ミリもする必要はありません。

それよりも、あなたの内部に、書くエネルギーを貯め続けることのほうが
10倍も重要なのです。

出版愛 吉田浩