童話で場外ホームラン(ミリオンセラー)をかっ飛ばす

2016年10月31日

こんにちは、出版業界のジャイアン、吉田浩です。

■童話は、もっとも「民度」が低い

前回のお話の続きです。
民度の低い本は、ミリオンセラーになることもあります。

Q,「図解本」よりもっと民度が低い本とはなんでしょうか?
  本のジャンルでお答えください。

A,答えは、「童話」です。

「絵本」と答えた方も正解です。

ただし、内容的に民度を下げていった究極のスタイルが童話であり、
内容を説明するためには、必ず、挿し絵がつきます。
この場合、「ストーリー」が主体で、「絵」は客体なので、
もっとも正しい答えは、「童話」となります。

「童話」とは、その名の通り、子ども用に書かれた「お伽話」のことです。

ところが、このお伽話の起爆力がすごいのです。
一度、火がつくと、大爆発してしまうのです。

具体的に、大ブレイクした実例を紹介しましょう。
なんと、日本で一番売れた本は、「童話」なのです。

Q,戦後最大のベストセラーはなんでしょうか?

A,『窓ぎわのトットちゃん』です。

この本は、1981年に講談社より刊行。 579万部売れました。
『窓ぎわのトットちゃん』の記録を破る本は、現在のところ、1冊も出ていません。

『五体不満足』 講談社
『バカの壁』 新潮社
『脳内革命』 サンマーク出版 でさえ、400万台なのです。

トットちゃんに続く童話が、チーズ本です。

『チーズはどこへ消えた?』 扶桑社
この本は、2000年に発行され、350万部売れました。

さらに、少年少女向けに書かれたファンタジーを含めるならば、
『ハリー・ポッターと賢者の石』 静山社 は、歴代2位の売り上げです。
この本は、1999年に発売され、506万部売れました。

この他にも、童話というカテゴリーの本で、
100万部以上売れている本はたくさんあります。

『葉っぱのフレディ』童話屋

『世界がもし100人の村だったら』マガジンハウス

どうですか、童話の潜在能力に驚きませんか?

■童話は、もっとも表現がむずかしい

それでは、何でもかんでも童話にすれば売れるかというと、それは違います。
テーマが童話に即していない本は童話化できません。

また、童話向きの本があったとしても、そのまま作品化できるかというと、
それも違います。

童話を書くのは、実用書を書くより、5倍もむずかしいのです。
これは、童話作家としての吉田の持論です。
反論もあると思いますが、根拠は以下の通りです。

1,ボキャブラリーの乏しい子どもに向けて、子どもの知っている語句を
一言一言つなぎあわせて文章を作らなくてはならない。

2,作品全体を流れる1本のストーリーを作り、
違和感なく、非現実世界に子どもを招き入れなくてはならない。
また、物語の終わりには、違和感なく、
現実世界に子どもを送り返さなくてはならない。

3,童話の世界は虚構の世界でありながら、
現実以上のリアリティが求められる。

4,童話世界を旅する子どもたちが、虚構の世界の中で
学んだり、発見したり、自己実現するあらゆる仕掛けを作らなくてはならない。

5,作品そのものがエンターテインメントであること。
 作品世界を旅してきた子どもの心に感動の種を植え付けること。
 さらに、旅の終わった子どもは何かしらの成長を遂げていること。

ひとつの童話は、選び出した一語一語をつなぎあわせながら、
気の遠くなるような作業の結果、やっと結実します。
これは、実用書を書く比ではないのです。

「童話は子どもだまし」とよく言われますが、とんでもない!
子どもほど、狡猾で、現実的な生きものはいません。
大人のウソやご都合主義などは、一瞬で看破されてしまいます。

それほど、リアリティを作り出すのは至難の技なのです。
吉田は、あらゆる書籍の中で、
一番、発想力と筆力がいるジャンルが童話だと思っています。

※余談ですが、もともと童話は、大人ための文学でした。
まだ、人々の識字率(文字が読めないこと)が低かったころ、
文字を持たない大人のために生まれた口承文芸が、
「昔話」や「メルヘン」だったのです。

もし、あなたが、世の中に広く訴えかける本を作りたいのならば、
これからは、ストーリーを童話仕立てにすることも考えてください。